2026-10-22
- 剱岳と木幡の記 後編
山での1日の始まりはとんでもなく早い、思春期の中学生のように早起きが嫌いな私には少しばかりストレスである。
※あっ、後編もまた小説気取りの文章かよ!って?今現在読んでる本が村上春樹なので影響を受け過ぎた結果です…ご了承くださいm(_ _)m(笑)
深夜3時、目が覚めた私は鉛のように重い上半身をヌクヌクと起こして、体調は問題がないことを確認する。
そして次に外の天気の確認だ。テントの出入り口のジッパーを開けるとそこには…




す、素晴らしい…



頑張って早起きした私に山はご褒美をくれた、でも満天の星空はまるで宇宙空間に一人迷い込んでしまったかのような恐怖すら感じた。しかし自然とは恐怖と優しさが混ざり合っており、人はその領域で勝っても負けてもいけない小さな存在である。「美しさに魅了されるがあまり近寄りすぎると山に飲まれてしまう」著名な登山家が言ってた言葉を思い出した時、私の真上で流れ星が過ぎていった。
剱岳の山頂アタック予定時刻は午前4時だった。早く出発すればゆっくりと時間をかけて慎重に登れるしさまざまなリスク回避となる、軽い朝食とコーヒを口の中に流し込み時間通りにテントを出発することができた。必ず無事にここへ帰ってこよう。

早朝からハードな道のりを歩くのはとてもしんどいが剱の岩壁にさしかかる前に無理やり身体全体を叩き起こす。少しずつ太陽がムクムクと顔を出そうとしていた、まるで男のブツが起き上がるかのように🍌おっと、これは失敬。



ペース良く進んでると体も温まり出発時から着ていたアウターレイヤーを脱いだ。上半身は半袖となり心地いい山の冷たい空気を肌で感じることができた。しばらく目を閉じて深呼吸をしてると何やら強い光と暖かな温もりが瞼に当たったので目を開けると、ご来光が朝の訪れを知らせてくれた。


ゆっくりと進んでると足元に可愛らしいお花があったのでiPhoneのカメラをそっと近づかせて写真に収めた。あとあと奥さんに調べてもらったら「トリカブト」という高山植物らしく植物界でトップクラスの毒を持つとされてることがわかった、花言葉は「復讐」と書いており二人で苦笑いしてしまった。

徐々に道はゴツゴツとした岩の形状へと変化していき目の前には出迎えてくれたかのように第一回目の鎖場が腕を組んでこちらを待ってる。目つきは鋭く睨んでるように思えた、剱岳の門番はここへ来る者に歓迎ではなく警告を伝えていたのだ。私はそれをありがたく受け入れ、門を通させてもらうことにした。


剱岳の前衛となるピーク、前剱だ。ここから先はこの山の核心へ入ることになる。核心とは進んだら簡単に引き返すことのできない体力と技術が必要になる最難関区域のことである。

先ほどの門番の警告通り、その時がやってきた。子供の頃に見た恐ろしいゴジラの背中のような荒々しい岩肌を横へと移動して進む鎖場だ。(この写真は後に登場する山で出会った優しい女性が撮ってくれた私の勇敢な姿である)

Screenshot 
Screenshot 恐ろしい場所に私は足を踏み入れてしまったと感じた、ここまで来たらもう引き返すことはできないのだ。岩場の幅は小学生の頃にやった平均台のように細く下にはもちろんマットなど存在しないし補助の先生もいない、あるのは絶対に近づいてはいけないあの世だ。

難所が終わったらまた次の難所が待っている、剱岳は登山者に次々と試練を与えてくる。まさにこの山の有名なフレーズ「試練と憧れ」という言葉がふさわしいと思った。


高度感を体全体で感じる「カニノタテバイ」と名がついた難所である。恐怖心をなんとか落ち着かせて3点確保重視で進む。パニックになったらもうそこで終わりだ。

難所をテレビ番組のサスケのように次々と乗り越えて山頂へ向かう、もちろん声援など一つもない、あるとしたら高山帯で生活をしてる可愛らしい小鳥達の鳴き声くらいだろうか。現代社会の人間なんて自然界に立ち入ってしまえば不便がつきまといカモシカよりも、いや小鳥達よりも弱い動物かもしれない。ここでは全てが平等となるのだ。
険しい道のりだが小鳥達の声に癒されながらなんとか登りきると遮る岩がなくなり360度開けた場所に着いた…

8月18日7時4分 剱岳登頂!

青い空にちょうどよく混ざり合った雲がまるで色彩画のようで美しかった。あたりを見渡すとすぐそこに富山湾、そして手前には立山の山々、その奥に北アルプスの名峰たち、さらにその奥に南アルプスと富士山が堂々と鎮座していた。

そして剱岳山頂のとても立派な祠が長い長い山岳信仰の歴史を物語っていた。ここで数えきれない人々を歓迎し見送り、ずっとずっと見守り続けてきたのだろう、厳しくて険しい山だからこそ祠の神様から強さと温かな優しさを私は感じた。祠に向かって目を閉じ静かに手を合わせてここまで登れせていただいた感謝を私は伝えた。


小腹も空いたので頂から絶景を見ながら軽食でも取ろうかと思ったら先ほど写真を撮ってくれた女性が山頂にちょうど着いたところだった。顔を真っ赤にして額から汗がにじみ出し被ってるヘルメットから垂れた前髪がびしょ濡れだったのが印象的でそこには一人の女性の勇敢さと美しさが感じられた。私と同じ30代くらいだろうか?彼女はここが山頂だと認識した瞬間、表情を和らげニコッと微笑み「やった!」と小さな声でつぶやいた。それはまさに心から自然と溢れる感情がそのまま声に出たのだろうと私は思った。
「あの〜写真撮ってもらえますか?」と彼女は満面の笑みでお願いしてきた。私はなぜだか少しドキッとしたが素早く落ち着かせ「もちろんですよ!」と爽やかに伝えて瞬時に立ち上がりスマホを受け取った。何枚か画角を変えて写真を撮りスマホを返したら「お兄さんも撮りましょうか?」と言ってくれたのでお言葉に甘えてお願いする事にした。意識はしてないはずなのになぜか私は余裕で剱岳登りましたよ的な慣れたそぶりでポージングしていた。

こうして私は剱岳登頂を果たすことができた。初めて訪れる山の楽しさ、挑戦することの素晴らしさをあらためて感じることのできた記憶に残る山行となった。


好きな山がまた一つ増えた。さて次はどこの山へ行こうかな?
夕焼け空の下、帰りの高速道路を走りながら考えるのであった。
最後まで読んでいただきありがとうございました!

































