2023-7-24
- 富士山再挑戦
行動時間
30時間42分
(総タイム33時間44分)
総上昇量
6821m
距離
57.7km
『ONE STROKE Mt‘FUJI』
富士山4ルート一筆書き
完登いたしました
先週の涙の敗退。悔しかった。とても悔しかったんです。
どうやったらクリアできるか、真剣に考えました。
今回の完登は完全に作戦勝ちです。
自分の速度、精神状況に合わせたコース順序、タイムスケジュールが完全に合致。何より富士山が無抵抗の状態で受け入れてくれました。それも作戦のひとつでしたが。
『彼を知り己を知れば百戦危うからず』
相手を知ること、自分を知ること、どうしたらできるかはこの2つを詰めることです。
今年の9月あたまの閉山までに僕がトライできるチャンスは残り3回でした。3回で何ができるか。
先週の富士山は僕の力では超えられませんでした。そして一週間で超えられる力はつきません。残りのチャンスで何度も練習を兼ねて脚力と耐風力,適応力をつける予定でした。
コース順序に関しては、自分の速度で明るいうちに3回目の登りを終えられること、気持ちを落とさず持ち上げられることをメインに考えました。
そして、如何に快適に不可が少なく歩ける環境を作るためにスタート時間も調整しました。
1番目は御殿場ルート
距離、登りともに一番長いこのルートははじめにクリアすること、気温が上がる前に必ず終わらせること。そのために仕事終わりの休息は犠牲にして無睡眠で挑戦することを選択しました。
2番目の富士宮ルート
一番距離が短いルート。一番気温が上がる時間帯になるため開始高度も高く、短時間で標高を上げられ酷暑から早く抜け出せるという点を重視。一度利用していることもあり、小屋での食事の内容もわかっていたので安心。
3番目は須走ルート
完全に未開ルートの為、前の2つのルートがタイムより遅れたらこの時点でリタイアする予定で配置。中盤まで樹林帯のため必ず明るいうちにそこまで抜ける前提で行動。あとはどこで睡眠をとるのかを現場でコンディションを感じながら検討。
4番目は富士吉田ルート
一番登山者が多いこのルートは人も多く小屋も多い。コンディションに限界を感じた時にいつでも休める環境、人と会うことで得られるエネルギー、先週も登っているルートなので安心感がある、意外と距離があることもわかっていたので「最後にこれで終わり」と頑張れるように。
これらの予定配分を念頭に置き、残り3回、毎回本番のつもりで挑みチャンスを狙う。こういう計画でした。が、一回で達成できたという結果となりました。
上記のタイムスケジュールはほぼ完璧なまでに運べました。
それができたのも『富士山の無抵抗』があったからこそです。先週の富士山は7合目以降は暴風で体力を奪われましたが、ただただ静かで、そのままの富士山の土台があるだけ。そこにほんの少しの微風という最高の環境だったことが完登できた勝因です。
【 回顧録 】
仕事を終え、荷物を詰め山に向かう。
先週は2時間ほど仮眠したが今回はそれもやめた。予定のコースタイムで進めるにはそれしか方法がなかったからだ。
深夜0時30分。標高1400mの御殿場口は街ほどの暑さはないが下界からの熱風があがり心地いいという環境ではなかった。
あぁ。これからながい挑戦がはじまるんだ。
真っ暗でとても長い道、その暗闇の先に富士山の姿。一歩、一歩をくりかえそう。
先に出発していた女性の方に追いつく。ライトを照らすと女性かと思ったが女装していたオネェだった。ライブ配信しているオネェだった。
夢中で歩いてたけど、ふと立ち止まった時に気絶したりしてる。しっかり歩こう。
気がつくとヘッドライトの明かりは薄くなった。だんだんと陽がのぼってきたんだ。
しっかり明るくなった頃、一度目の頂上にたった。
急いであがってきたわけじゃないから休憩はいらない。靴紐だけ締めなおして下山する。自分で気合いのセルフビンタ。セルフだから痛くない。
下山は駆け足で降りたかったけど、富士宮ルートは登山者の多い道、いろんなとこで大渋滞。ツアーの大所帯もたくさん。
「そのTシャツいいじゃん。どこで買ったの?」タメ口で話しかけてくるやつがいる。「いいでしょ。」タメ口で返してやった。
ボチボチ降って富士宮五合目。小屋であんかけラーメンを食べてカロリー補給。
気張って第二ラウンドスタート。エネルギーいれたから体が動く。
「あれ?また登ってんの。何回登んの」またタメ口野郎に会った。「全ルートやろうと思って」タメ口で返してやった。「じゃあ頑張ってください」だって。
タメ口で返すと最後は敬語になる。なんかのツイートで見たのを実践してみた。
やっぱり急いで登ってないからそんなに疲れてない。あわてないあわてない。一休みひと休み。そんな歩みだ。
3時前に下山を開始した須走ルートだが、雲が上がり太陽を遮ったので景色こそよくはないが涼しい環境で下れた。ここの『砂走りルート』先週も御殿場の砂走りを体験してるから下山後の靴の中の砂埃、砂利まみれを取り除き、がっかりしないという精神力をつけといてよかった。
丁度夕方になってたから須走口五合目で下山した何組かの登山客の方と話をした。一筆書きの話をすると「信じられない」「クレイジーだ」と褒めてもらい、言葉のエネルギー補給完了。辛いのに走り去ってみた。すごい疲れました。
砂走りでどえらい目にあった下山ルートとは違い、樹林帯の登りはよく整備されててとても歩きやすくて助かった。夜になって水分を買えないと困るので六合目小屋で水を購入。須走ルートも樹林帯を超えたあたりで完全に日が沈み真っ暗になった。
どこからかわからないが花火の音がこだまする。
真っ暗な道、月のない空で星がよく見えるけど街の光もよく見える。漆黒の怖さがないのは人の営みが感じられるからかな。
真っ暗な富士吉田ルートをひとり下山。ながいながいジグザグの道。登山口には登りだしの外国の方が沢山。
登山道から林道を抜ける真っ暗の一本道。誰も通らず1人で歩く40分。突然虚無感と脱力感が迫ってきて一旦ガードレールに座り込んで休憩。また少し歩いて休憩。やっとの思いで辿り着いた吉田口にも誰もおらずターミナルの灯りだけがついていた。この時点で前日から40時間くらい動き続けてたので目をつむりたかったんだと思う。もう少し前から小屋に泊まろうかとも考えたが、一回リセットしてしまうことが色んな気持ちもリセットされてしまいそうで怖かった。体の汗も、砂で汚れた顔もシートで拭きたかったけどそれすらも怖かった。登ろうって気持ちすら拭きとってちゃいそうで。
結局ザックからパッドを剥いでコンクリートに敷いて目を閉じた。
ふと目を覚ましたら30分も寝てなかったけど少し気持ちが楽になった。もうゆっくり行こうって。ちょっとでも進んでれば着くよ。あと一本だもん。
ゆっくり歩きながら思った。行けるとこまで来てよかったと。あと2本残してたらまた諦めてたと思う。
12時過ぎの吉田ルートは小屋に泊まっていた人たちがご来光目指して一斉に動き出す。
パーティが多く歩みは遅い。それがよかった。抜かすこともせず、離れるまで岩間に座って目を瞑る。いなくなったらまた追いついて座って目を瞑る。
数組の親子パーティを抜かして上の岩陰で目を瞑ってると「お母さんあの人僕らのこと心配で上から見てるのかな」って言ってた。寝てるだけだよって言わずに、休むのもやめて登ることにした。
八合目を過ぎた頃には明るくなって、そのうちに陽が昇った。どうでもいいやとも思ったがやっぱり太陽は元気がでる。明るいってだけでありがたいんだった。
渋滞していた頂上付近。ゆっくりゆっくり登った。
頂上についたとき、涙が出た。抑えきれない気持ちが溢れてきた。
悔しかったこと。やっとできたこと。登ってこれたこと。諦めなくてよかったこと。やっと終われる。色んな気持ちが溢れてきた。
少し気持ちも落ち着いて、最高峰『剣ヶ峰』へ向かう。
今日はとても風が強い。でもあと少しだから。
頂上で外国の方に写真を撮ってもらった。その人の写真も撮ってあげた。とてもいい笑顔だ。
あとはホントに降るだけ。はじめに登った御殿場ルート。焦らず慌てず怪我しないように。
途中からは大砂走りを大滑走。砂煙を巻き上げて走ってく、靴の中を砂だらけにして…
午前10時過ぎ
はじまってから33時間44分
僕の富士登山は終わりました。
なんでそんなことやってるんですか?
よく聞かれます。
自分の価値ってなんでしょう?人の物差しで測られるものではないと思うんです。
つまらない。意味がない。は他人の決めた価値です。もちろんそう思う気持ちもわかります。だって他人だから
自分が決めた価値だから本気で取り込めるんじゃないでしょうか。
自分で決めたことだからやり抜くことに意味があるんじゃないでしょうか。
まだまだだけど、生きているときっと辛いこと、大変なことが沢山あります。
でも沢山の人が助けてくれます。
でもホントの最後に頑張るのは自分自身しかいないんです。
そのとき今までやってきたことが自信になり背中を押すんだと思います。
僕には夢があります。
生涯仕事をしていたいということ。
大きなその課題は『健康』でなければできません。簡単なようですごく難しい課題です。
怪我したり、病気したり、なにかで傷ついたり。いろんな角度から人は自信を失います。
そんなときにちゃんと向き合える自分でいることが大切だと思ってます。
前に進める足があること。何かを掴む手があること。いろんなことを考える心があること。
行き届かないことの方がたくさんだけど
一歩一歩、すこしづつ
おわり